蓼科散歩物語

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蓼科散歩物語 vol2 ハーバルノート・シンプルズ いつまでもここにある店

蓼科で約30年という長い月日を経た、ハーバルノート・シンプルズ。その佇まいが、経過した月日を物語っています。この不思議な空間の主である萩尾エリ子さんにお話しをお伺いしました。

東京から長野へ

自立をして仕事をして生きていきたいってずっと思っていて、コピーライターの学校へ行ったり、広告代理店に入ったりしたんですけど、今ひとつ良くわからなくて。仕事を辞めて、昭和40年代に東京の青山に店を作ったんです。飲む所があって、映画を上映したり落語をしたりとか。一軒目は青山学園脇、2軒目はキラー通りといって青山1丁目で、まだいろんなものが無い時だった。当時は、景気が良くて私達のような素人でもなんとか参入出来たっていうか・・・。

生まれは世田谷なんですけど、結婚してからは大田区山王という所で過ごしていて、その後こちらに来たんです。子供の年を数えると33年位。ハーバルノートは28年位になっているかな。

子供が二人いて長男が生まれた頃、都会に住むことが無理っていうか、自分が子供の頃と違って原っぱがないし、引っ越したいと思って・・・。いろいろ探して、こっちの方に来たのが最初です。生活は苦しくなるけど、子供と自分と家族の為に、もっと息が楽に出来る、楽に呼吸の出来る場所をたぶん探していたんだと思います。空が広くって、カラッとしていて、気持ちが良くって、それでこの辺を選んだんですね。

当時、長野県が別荘地を売り出していたんです。でもお金があまり無かったので、交通費とお弁当付きで見させてくれる所があって、何回か行っている内にここを選ぶことになったんです。子供達は、保育園、小学校、中学校とずっと地元で過ごしてきましたし、高校も諏訪圏内でお世話になりました。地元に恩返しをしたいと思い、いろんなボランティアをさせていただいたりして。

自分が住んだところから歩いていったらこの建物を見つけて、それで現在に至っているんです。


普通の人が使えるアロマテラピー

なんでハーブ屋さん?と思われるかもしれませんが、野草を探したり食べてみたりしたんです。お金が無かったからやったんだと思うんですけど、憧れもあったし、そういうのが下敷きなんです。
 野草を独学で学んでいたときに、心も体もどっちも行けるんだ、これはもっと素早く人にアプローチ出来るものである、ということがわかって一生懸命になったんです。
 ハーブは当時、あまり知られていなくて一日に一組も来ないこともありました。あるグラビアのような本で、フランスの薬草店を見たことがあって、こういうのをやりたいと思って・・・それが原点です。やりたかったのは、西洋薬草店みたいな感じでした。

カモミールとかラベンダーとか、一つ一つ多くの人が知るようになり、続けてきて良かったと思います。長野県は薬草園とかあって、割合とその土壌はあるんでしょうね。

アロマテラピーの場合は、植物が持っている成分の中の香りを使うんです。だからラベンダーならラベンダーに含まれているいくつかの香り、ミントならミントの香りっていうふうに。ラベンダー一つにもいろんな種類があるんです。生える場所や標高の高い所と低い所では持っている成分が違うんです。それは、その植物がそこで生きていくための必要条件だから。そうすると産地も重要になってきます。
 タンポポとかミョウガでもいいですし、そこに含まれている成分というのはいろいろあるんですよね。消化を助けるいろいろな成分とか。特に香りを強く持っている植物っていうのは香りに薬効があるんです。それだけを抽出したものを使うタイプがアロマセラピー、アロマテラピー、芳香療法という言い方をしていて。治療ですね、本当は・・・。
 日本に最初に来た頃は、気持ちがいいとかリラックスするというレベルで入って来るんですけど、良い精油に出会えなくて・・・。匂いが畑で嗅ぐものとか、茶でいただくものとか、なんか違うと思っていました。そうしたら、その頃主人が私の思いに気づいていろんなオイルを探し始めた時に、主人の友人が輸入することに決めたオイルが一つあったんですが、とってもいい匂いでした。それを輸入することになったとき、それは医療用のもので今までの物とはちょっと違ったんです。どう違うのかって聞いたら、化学成分の話だとか、臨床的にはどのように使われてきているとか、そういう話を薬学博士に教えてもらったんです。それで、「おぉ、これは!」と思ったのがきっかけでした。うちだけで輸入して売るのは無理だから、仲間の何組かで始めました。

医療でも介護でも、普通の人が使えるようになることが大事です。いろんな場所で役に立つことがわかってきました。そういうのが私が伝えてるアロマテラピーです。
勉強会をしていて卒業した方も沢山いらっしゃるんですけど、主婦もいれば介護者の方もいて、どの立場であっても必要な時に使えるように。必要がなければ使う必要は全くありません。

切羽詰るときがあるんですよ。例えば、お身内の方に非常に時間のない方が出たとか、精神的に具合が悪いとか、いろんな薬も使っているけれどなかなか良くならない、という時に。医療は駄目でこっちがいいとかじゃなくて、お医者様と一緒に考えながら、医療と一緒に出来ることをやっていくということが非常にいいということにだんだん気付いてきました。ここに来られる方でも、必要な時は必要なアンテナが張るし、必要なければ気持ちいいわねってお帰りになるし、それはそれですごく幸せなことだと思います。


これから・・・

これが私の仕事って思ったわけじゃなくて、ここで暮らして、なんとか食べてきて、いろんな方にお世話になりながら暮らすことが仕事の中に入ってきているので、ここい居られるから仕事が好きだし、ほかで何かをしようとは思わないですね。
  いろんな夢や希望は、少しずつ持ってますけど、とにかく何とかここまで来られたことに日々有難いと思います。ガーデン雑誌とかよく取材があるのですが、畑も殆ど何もしないし、たまに手を入れるだけなんですよ。でも、そういうことが人は一番難しいのかもしれないですね。ちょっとわがままだけど、これをさせてもらうわ、とかその程度ですよね。

自分が若いときはもっともっとハングリーな部分もありましたけど、今は足りてます。本当はね、足りないと思ったらいっぱい足りないと思うんですけど、今日は雨が降ったから気持ちいいとか、割とそういう感じ。ここにいらっしゃる方は、こんな小っちゃい所だけど、庭を歩いているうちに、「なんか良いんだよね」みたいな感じでゆっくりして帰ってらっしゃいます。決して立派に広いわけでもないのですが。

ここが続けられることが夢でもあるんだけど、庭は庭として、建物は建物として、何かが育っていくものがあるんですよね。例えば屋根に草がいっぱい生えているけれど、自然に出来ちゃったもので、でもきれいねって・・・。見た目はわからないけど、育っていくものが必ずあるから。その育っているものを大事に思いながら、ちょっと安らかに過ごせたらいいなというのが私の夢です。


丁寧に生きる

若い人たちに伝えていけるものがささやかにあれば、それを伝えていきたいですね。若い人たちが生きやすくなるための思い方や考え方を。自分とそれに関わる他者っていうか、その人たちが「今日も一日楽しかった」とか「美味しかった」とか、「ご馳走様」とか「おはよう」って機嫌よく始まって、「じゃ、また明日」と言える日々が出来ればいいと思います。
  自分は何者でどのように生きたいのか、ずっとずっと考えてきていて、でもそれって籠ってやることではなくて、こういうオープンスペースで普通に働くということですね。仕事の内容にかかわらず働くって重要なことなので、働きながらいろいろなことを考えていくってこと。そういうことを思うようになったのは、本当に最近のことですが・・・
  自分を探すということではなくて、まず毎日をちゃんと過ごすことが一番大事なんだということをここで気付きました。夢をすごく追ってどうこうじゃなくて、今日は駄目だっていうことはいっぱいあるけれど、とりあえず、今日をちゃんと生きていくとそれがつづれ織りのようにやがて自分の実になってくるんだ、っていうことに気付くのには時間がかかりました。
  それに気付くには、毎日丁寧にしていないと駄目なんだということ。荒い毎日というのは、荒いものしか生まない。毎日全部は出来ないけれど、一つでも二つでも丁寧にする。丁寧にするというのは、自分に丁寧に、そして人に丁寧に。
  全員がちゃんと出来てないときがあるかもしれませんが、うちのスタッフは割と優しくて良いですね、って言われるんです。まず、ここでスタッフに対し一番にお願いするのは、人には優しくすること。優しすぎて困ることは一つもありません。不機嫌なこととか、嫌なことはあるだろうけど、それは自分で消化をして、人と会っているときは優しく、できるだけ心を砕いて人と接して欲しいと思います。物を沢山売りなさいということは言わないんです。売れたらいいとは思いますけど。これは時間をかけて覚えたことなんです。どんなに早くこうなればいい、ああなればいいって思っても、なかなかうまくいかないんです。ただ、今日をちゃんとやると明日はちゃんと来たりするんですよね。

みんな来年も再来年もあると思っていますし私もそう思いたいんですけど、ボランティアをいろいろしていきた中で、命の限りある人を見るときに来年がない人もいますしね。でも、その人が精一杯生き切っていらっしゃるのを見せて頂くわけですが、実は私にはそこまでの覚悟は出来ていません。ですが、「また明日ね」と言って明日も良かったらいいな、っていうことを細々と続けていくことが人として背骨を真っ直ぐに立っていくような感じっということを自分の中でちょっと気付いたんです。迷っているとかって話をすぐにするわけじゃなくて、ちょっとして時にすると、「そうよね」ってまた明日新しい角度で見てみようと思うと違うんです。感情をすぐに変えることは出来ないから方向を変えるしかできないですね。見る方向を変えることしか。そういう見方を覚えたらもう少し楽だろうと思います。今、心が辛い人のほうが多いのだから。ここはそういう人が吸い寄せられてきますね。

いろんな年代の方がいろんな時代を生きているので、生まれた時から携帯があったり、今の人たちは何でもあるわけですけど、逆に何が足りないかを分からないから余計辛いんですよね。私達のときは、無いものはないし、っていうところがあったけど。更にお年よりはもっとだけど。私達は戦後だから軟弱だと思うんです。それでもまたどんどん違う悩みを抱えていく。昔は食うや食わずで、今はいかに生きるかを悩むわけです。実際には、仕事が無かったりするし、現実は厳しいですよね。

ここのリズムを一回覚えると、これって命のリズムだから、そしたら本当は大丈夫なの。皆がここに住める訳じゃないですよね。だから、ここのリズムを覚えて帰るんですよね。そしたら時間の使い方の考えを変えることが出来る。体で覚えてもらうんです。頭で考え過ぎだから。現代人は情報がすごいから、頭で考える人が多くなっているので・・・。


野草のように

店を大きくしようとも思ってないし、いろんなことをしようとも思っていなくて、これ以上人数を増やすこともないし、この人数がキープできればいい。私が望むことは、野原に立って、出来れば凛として風に吹かれたりしながらそこに立っていられる人みたいなのが好きなんですよね。自分が自分として立てること。自分という命を最後まで自覚して過ごしていくことかな。あなたの命はあなたのものだけれども、それを終わるときまで丁寧にね、って。
  いろんな人がいなくなっているのを見ていると、人に依存したいときには頼りにすることも必要なんだけど、風に吹かれてふっと立っているような、野の力を失わないことかな。人としてとか動物としての。自然界の中に生かされているから、その中で思い出していくことが大事なことかな。

一日の中に何回か振り返ることがあって、考え直すんですよ。原点がぶれないように。
  ハーバルノートシンプルズ。何故simple(シンプル)にsがついているかって言われるのですが、シンプルとは古くからの薬草の言い方なんです。そこにsをつけているので薬草達なんですけど。それと簡素に全てを削ぎ落として大事なものだけをなるべく出そうと。それでシンプルズなんです。ハーバルノートのノートは、単純に記録と記憶という意味と音楽のブルーノートとかに使う音の調べ、それから香調といってフローラルノートとかの香りの三つを意味しているんです。
  一番嬉しいことの一つは、小さいときに来ていた店がまだあって、しかも同じで、不思議な空間だったのが大人になってみたらこうだった、でもやっぱり不思議だと思ったりとか。夏になったら必ず来てくれたり。嬉しいですよね、小さかったお子さんが30年も経つと大人になっているんです。

いろんな世界があるけど、ここはまた一つの世界。こういう扉を開けてみると、いろんな価値観とか視野が違って見えるものがもしかしたらあるのかもしれません。ネットがありますが、リアルな姿って一番大事なこと。講座とかいろいろありますが、なるべくここに居たいと思っているんです。いろんな方とお話をしたり、接客していたいと思っているので。用事がなければ必ずここに居ます。それが、私の喜びでもあるので。


蓼科ハーバルノート・シンプルズ

蓼科ハーバルノート・シンプルズ

長野県茅野市豊平10284
OPEN 9:00AM
CLOSE 6:00PM
定休日 水曜日
TEL:0266-76-2282

http://www.herbalnote.co.jp/

バックナンバー

  • vol1.ポニーハウス 
  • vol2.ハーバルノート・シンプルズ


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